L-013 整形外科医は腰痛をどう診断する?

問診・歩き方・触診・神経診察・レントゲン・MRIまで【前編】

監修/合田 猛俊/佐々木 拓郎/清藤 直樹

腰痛で整形外科を受診すると、「レントゲンを見れば原因が分かるのでは?」「MRIを撮れば病名が決まるのでは?」と思われる方も多いかもしれません。

しかし、実際の腰痛診療は画像を見るところから始まるわけではありません。

ごうだ整形外科では、患者さんが診察室に入ってくる前の問診から、歩き方、姿勢、椅子への座り方、身体の動かし方、触診、筋力、感覚、腱反射などを確認し、それらの所見とレントゲンやMRIを照らし合わせながら診断を進めます。

腰痛診断で重要なのは、「MRIに何が写っているか」だけではなく、患者さんの症状と画像が本当に一致しているかを見ることです。

レントゲンの変形が強くてもほとんど痛くない人もいます。MRIに大きな椎間板ヘルニアがあっても症状がないことがあります。反対に、MRIではそれほど強い圧迫に見えなくても、非常に強い痛みが出る患者さんもいます。

そのため当院では、画像だけを見て腰痛を診断するのではなく、患者さんを診察して得た情報と画像を一つずつ組み合わせながら、「どこが、なぜ現在の症状を起こしているのか」を考えることを大切にしています。

1.腰痛の診察は、診察室に入る前から始まっています

ごうだ整形外科では、医師が患者さんを診察する前に、まず看護師が取った問診を確認します。

その後、スタッフが患者さんを診察室へ案内しますが、実はこのときから診察は始まっています。

患者さんが診察室へ入ってくる様子を見ながら、次のような点を確認します。

  • 普通に歩けているか
  • 足を引きずっていないか
  • 前かがみになっていないか
  • 身体をまっすぐ起こせているか
  • 痛みをかばうような歩き方をしていないか

診察室の中で改めて歩いてもらうよりも、患者さんが意識していない状態での自然な歩き方を見ることで分かることがあります。

患者さんが診察室のドアを開けて入ってくる、その瞬間から診断は始まっています。

2.椅子への「座り方」も診断の手がかりになります

患者さんには、まず椅子に座っていただきます。

このときも、次のような点を見ています。

  • スムーズに座れるか
  • 座る動作そのものがつらそうではないか
  • 座ったあとも痛そうにしているか
  • 座ると逆に楽そうになるか
  • どのような姿勢を取ると楽なのか

例えば、座ることそのものが非常につらい場合には、椎間板が関与する病態などを考えることがあります。

一方、立っているとつらいものの、座ると明らかに楽になる患者さんでは、脊柱管狭窄症などを考える手がかりになります。

もちろん、座り方だけで病名を決めることはありません。患者さんが自然に選んでいる姿勢を、問診やその後の診察所見と組み合わせて判断します。

3.問診では「どこが痛いか」だけを聞くわけではありません

腰痛の問診では、まず痛みの場所を確認します。しかし、それだけではありません。

当院では、次のような点を確認します。

  • いつから痛いのか
  • 急に始まったのか、徐々に始まったのか
  • 何をしているときに始まったのか
  • 安静にしていても痛いのか
  • 立っていると痛いのか
  • 座っていると痛いのか
  • 歩くと痛みやしびれが強くなるのか
  • 足に痛みやしびれがあるのか
  • 足に力が入りにくくないか
  • 排尿や排便に異常がないか

腰痛では、病名そのものを聞き出すのではなく、症状の出方から「どこに原因がありそうか」という仮説を作ることが問診の役割です。その仮説を、これから行う身体診察や画像検査で一つずつ確認していきます。

4.前に曲げる・後ろに反らす――腰の動きから原因を推測する

問診が終わったら、患者さんに立ってもらい、腰の動きを確認します。

前に曲げると痛い

腰を前屈したときに痛みが強くなる場合には、椎間板が関与している病態や椎間板ヘルニアなどを考えます。

後ろに反らすと痛い

腰を後屈したときに症状が出る場合には、脊柱管狭窄症などを考える手がかりになります。

横へ曲げると痛い

身体を横へ曲げたときの痛みでは、腰周囲の筋肉など、腰の側方にある組織が関与する痛みを考えます。

ただし実際には、「前に曲げても痛いし、後ろに反らしても痛い」という患者さんも少なくありません。

「前屈で痛いから椎間板ヘルニア」「後屈で痛いから脊柱管狭窄症」と、動作だけで病名を決めることはありません。

動作確認は、診断を決定する検査ではなく、原因を絞り込むための一つの手がかりです。

5.腰を押して「痛みの出発点」を探します

次に、基本的には診察ベッドで腹ばいになっていただき、腰を触診します。まず背骨の真ん中付近から順番に触れていきます。

骨そのものを押して強く痛む

背骨の骨の部分を押して明らかな強い痛みがある場合には、骨そのものに問題がないかを考えます。特に高齢者や骨粗しょう症のある患者さんでは、圧迫骨折を疑う重要な所見になります。

骨と骨の間付近を押すと、お尻や足へ痛みが響く

腰を押したときに、その場所だけではなく、お尻や下肢へ痛みが放散する場合には、椎間板や神経が関係している可能性を考えます。椎間板ヘルニアなどでみられることがあります。

お尻が痛い

お尻の痛みでは、腰から出る神経による坐骨神経痛だけを考えるわけではありません。

  • 腰椎から出る神経
  • 梨状筋周囲
  • 仙腸関節

など、複数の原因を考えます。

「どこを押すと痛いか」だけではなく、「押した痛みがどこへ広がるか」も確認します。

6.診察台での寝返りも診断材料です

診察では、患者さんがどのように診察台に横になるかも見ています。腹ばいから仰向けになるときなど、身体の向きを変えるだけで非常に強い痛みが出る場合があります。

このような体位変換時の強い痛みでは、圧迫骨折などを疑うことがあります。

ただし、いわゆる「ぎっくり腰」でも体動が非常につらくなることがあります。

「寝返りができないほど痛い=骨折」と単純に判断するのではなく、圧痛や発症状況、年齢、骨粗しょう症の有無、画像所見などと組み合わせて判断します。

7.SLRで神経症状を確認します

仰向けになっていただいたら、SLR(Straight Leg Raising:下肢伸展挙上テスト)を行います。膝を伸ばした状態で足をゆっくり持ち上げ、痛みやしびれがどこに出るかを確認する検査です。

教科書的には、足を上げたときに下肢へ神経に沿った痛みが出れば、椎間板ヘルニアを疑う所見の一つとされています。しかし、実際の診療ではもっと複雑です。

SLRで足が痛くなくてもヘルニアはあります

椎間板ヘルニアがあっても、SLRでははっきりした下肢痛が出ない患者さんは少なくありません。特に10代・20代など若い患者さんでも、典型的な検査所見が出ないことがあります。

SLRが陰性だから椎間板ヘルニアではない、とは判断しません。

お尻だけが痛むこともあります

SLRを行った際、足先まで痛みが走らず、お尻の部分に強い痛みが出る患者さんもいます。このような場合でも、椎間板や神経が関係していることがあります。

太ももの裏だけが突っ張る場合

一方で、足を上げたときに太ももの後ろだけが突っ張り、それより先へ症状が広がらない場合には、神経ではなくハムストリングスなど筋肉の硬さが関係していることがあります。

SLRでは「痛いか、痛くないか」ではなく、「どこまで、どのような痛みが出るか」を見ることが重要です。

8.腰痛でも股関節・仙腸関節を調べます

SLRのあと、そのまま膝を曲げて股関節を動かします。腰痛だと思って来院していても、実際には股関節が痛みの原因になっていることがあります。

そのため、次のような点を確認します。

  • 股関節を曲げたときに痛くないか
  • 股関節が硬くないか
  • 股関節を動かしたときに腰や殿部の痛みが誘発されないか

また、股関節を外側へ動かしたときの痛みなどから、仙腸関節が関係している可能性を考えることもあります。

腰が痛いからといって、原因が必ず腰椎にあるとは限りません。

股関節や仙腸関節など、腰の周囲まで含めて診察することが重要です。

9.筋力・感覚・腱反射から、どの神経が障害されているかを考える

次に徒手筋力検査を行います。腰から足へ向かう神経は、障害される場所によって筋力が低下する筋肉や、感覚が低下する場所が異なります。

そのため、足首や足趾を動かす力などを確認し、L4・L5・S1など、どの神経根が障害されている可能性が高いかを考えます。

筋力低下がある場合には、同じ神経支配領域の感覚も確認します。さらに、次の腱反射も調べます。

  • 膝蓋腱反射
  • アキレス腱反射

筋力だけ、感覚だけ、腱反射だけで判断するのではなく、それぞれの所見が同じ神経を示しているかを見ることが重要です。

また、高齢の患者さんでは、検査の指示どおりに足や指を動かすことが難しい場合もあります。単にうまく力を入れられない状態を「麻痺」と判断しないよう、診察全体を見ながら評価します。

若い患者さんではSLRがはっきり陽性にならなくても椎間板ヘルニアが存在することがあるため、必要に応じて座位で膝を伸ばしたときの症状の出方なども確認します。

前編まとめ|腰痛の診断は画像を見る前から始まっています

腰痛の診断では、問診だけ、動作だけ、触診だけ、SLRだけで病名を決めることはありません。

患者さんが診察室へ入ってくるときの歩き方から、座り方、腰の動き、圧痛、寝返り、神経学的診察まで、一つ一つの所見を積み重ねて原因を絞り込んでいきます。

後編では、ごうだ整形外科で行っているレントゲン撮影の流れ、MRIが必要になる場合、画像と症状が一致しないときの考え方、画像で原因が分からない腰痛への対応、腰以外の重大な病気を見逃さないための画像の見方について詳しく解説します。