L-015 腰痛の治療法|薬・リハビリ・神経ブロック・手術をどう使い分ける? 【後編】手術・慢性腰痛・再発予防|腰痛治療のゴールとは?
L-015 腰痛の治療法|薬・リハビリ・神経ブロック・手術をどう使い分ける?
【後編】手術・慢性腰痛・再発予防|腰痛治療のゴールとは?
監修/合田 猛俊/佐々木 拓郎/清藤 直樹
前編では薬物療法と急性期の治療、中編ではリハビリと神経ブロックについて解説しました。
後編では、どのような場合に手術を考えるのか、慢性腰痛をどう治療するのか、そして痛みを再発させにくい生活や身体の使い方について解説します。
腰痛治療では、痛みの強さだけで手術を決めるわけではありません。薬・リハビリ・神経ブロックなどの保存治療で症状をコントロールできるか、神経を早急に守る必要があるか、患者さんが手術を安全に受けられるかまで考えて治療を選びます。
治療のゴールは、薬で痛みを感じなくすることではなく、痛みが生活の中心にならない状態へ近づけることです。
19.神経が圧迫されていても、すぐ手術とは限りません
MRIで椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が確認され、神経が圧迫されていても、それだけで直ちに手術になるわけではありません。
まず考えるのは、その患者さんの症状を薬物療法、リハビリ、神経ブロックなどで十分にコントロールできるかということです。
画像で神経圧迫があっても保存治療で痛みやしびれが軽減し、日常生活を維持できるのであれば、そのまま経過を見ることがあります。
逆に、画像上の変化がそれほど大きく見えなくても、保存治療を行っても症状が強く、生活が維持できない場合には手術を検討することがあります。
画像の大きさだけではなく、患者さんが実際にどの程度困っているかを合わせて判断することが重要です。
20.初診時から早急な手術評価が必要になる代表が「膀胱直腸障害」です
腰痛や下肢症状の患者さんで、初診時から早急に手術を前提とした評価が必要になる代表的な状態が膀胱直腸障害です。
例えば、尿が出ない、尿意が分からない、便意が分からない、お尻や陰部の感覚がおかしい、といった症状です。
このような状態では、神経ブロックで様子を見るのではなく、神経の圧迫を早期に解除する必要性を検討します。対応が遅れると神経障害が残る可能性があるため、緊急性の高い病態です。
21.麻痺があるからといって、すべての患者さんがすぐ手術になるわけではありません
筋力低下などの麻痺がある場合は重要な神経症状ですが、「麻痺がある=全員すぐ手術」と単純に決めるわけではありません。
麻痺の程度、進行しているかどうか、画像所見、痛みやしびれ、日常生活への影響、保存治療への反応などを総合して判断します。
一方で、麻痺が急速に進行する場合や膀胱直腸障害を伴う場合などは、より早い専門的評価が必要になります。
22.手術を考える大きな目安は「保存治療に抵抗するか」
手術を考える大きな判断材料の一つが、保存治療を行っても症状が十分に改善しないことです。
薬物療法、リハビリ、神経ブロックなどを行っても、強い痛みや神経症状によって仕事や家事、歩行などの日常生活が長期間妨げられている場合には、手術によってどの程度改善できるかを検討します。
つまり、手術は「痛みが強いから行う」のではなく、保存治療で十分な改善が得られず、手術によって症状の原因を改善できる可能性がある場合に考える治療です。
23.神経ブロックが手術による改善を考える手がかりになることがあります
保存治療で十分な改善が得られないものの、手術によって症状が改善するか判断が難しい場合があります。
そのようなとき、責任神経と考えられる場所に神経ブロックを行い、一時的にその神経の痛みを抑えたときに症状がどの程度改善するかを見ることがあります。
症状が大きく改善すれば、その神経が現在の症状に関与していることを考える材料になります。手術適応や手術効果を判断する際の一つの参考になることがあります。
ただし、神経ブロックの効果だけで手術の結果を断定できるものではなく、画像や神経所見、患者さんの状態を合わせて判断します。
24.手術をしたくても、実際には手術が難しい患者さんもいます
病態として手術を考えた方がよい場合でも、すべての患者さんが実際に手術を受けられるわけではありません。
高齢、心臓や肺などの合併症、全身麻酔のリスク、生活環境、家庭の事情、経済的な事情など、さまざまな要素を考える必要があります。
脊椎手術は腹臥位で行うことがあり、手術時間や麻酔による身体への負担も考えなければなりません。特に高齢者や重い合併症のある方では、手術そのものの負担が大きくなる場合があります。
そのような患者さんでは、複数の薬物療法や神経ブロック、リハビリなどを組み合わせ、手術をしない中で痛みをできるだけ生活可能なレベルまで下げることを目指します。
25.慢性腰痛だから、強い薬を飲み続ければよいわけではありません
慢性的な腰痛は、治療が難しいことがあります。
慢性疼痛に使用する薬を長期間使用することで痛みが軽減する患者さんもいます。しかし、「慢性だから強い鎮痛薬を続ける」というだけでは十分ではありません。
大切なのは、なぜ痛みが長く続いているのかをもう一度考えることです。
例えば、椎間板ヘルニアなどによる神経への刺激が残っているのか、筋肉のこわばりが主体なのか、姿勢や身体の使い方が関係しているのか、体幹筋力の低下や運動不足が関係しているのかによって、必要な治療は変わります。
慢性という期間だけで治療法を決めるのではなく、現在の痛みの原因を考えて治療を組み立てます。
26.慢性腰痛では、薬・リハビリ・生活改善を組み合わせます
筋肉のこわばりが大きな原因であれば、筋肉を緩める治療やリハビリを行います。
姿勢や身体の使い方に問題があれば、理学療法士による動作指導を行います。
体幹や下肢の筋力低下があれば、運動療法によって身体を支える力を改善します。
一つの治療だけで慢性腰痛を解決しようとするのではなく、その患者さんの原因に合わせて複数の方法を組み合わせることが重要です。
27.腰痛治療のゴールは「痛みを完全にゼロにすること」だけではありません
年齢を重ねると、腰椎、椎間板、関節、筋肉などにも変化が起こります。二足歩行をする人間にとって、腰には日常的に負担がかかります。
そのため、慢性的な腰痛では「10代・20代の頃のように、まったく痛みがない身体へ戻す」ことが現実的に難しい場合があります。
そのときに目指すのは、痛みをうまくコントロールし、ご本人が痛みを大きな負担と感じずに生活できる状態です。
眠れる、歩ける、仕事や家事ができる、外出できる、自分の生活を維持できる。このような状態へ近づけることが腰痛治療の重要なゴールです。
28.薬で「痛みを感じなくすること」と、痛みが出にくい状態をつくることは違います
鎮痛薬を強くしたり量を増やしたりすれば、痛みを感じにくくできる場合があります。
しかし、薬を増やして痛みを感じなくすることだけが医療のゴールではありません。
当院では、必要な薬を使いながら、神経ブロック、リハビリ、運動療法、生活指導、必要に応じた手術などを組み合わせ、できるだけ痛みそのものが出にくい状態へ近づけることを目指します。
薬物療法は重要な治療ですが、薬だけに治療を任せないことも大切です。
29.腰痛の再発予防では「身体の使い方」が重要です
腰痛の原因は一人ひとり異なるため、再発予防の方法も全員同じではありません。
ただし、多くの患者さんに共通して重要なのが、腰へ負担を集中させない身体の使い方です。
長時間の中腰、同じ姿勢を続ける立ち仕事や座り仕事、腰だけを使って重い物を持ち上げる動作などは、症状によっては腰への負担を大きくします。
患者さんがどの動作で症状を起こしたのかを確認し、その動作をできるだけ繰り返さない方法を一緒に考えます。
30.ヘルニアを経験した患者さんには「発症した動作の逆」を考えます
例えば椎間板ヘルニアを経験した患者さんで、中腰の状態から重い物を持ち上げたことが発症のきっかけになったのであれば、同じ動きを避けることが再発予防の第一歩になります。
重い物を持つときには、腰だけを曲げて持ち上げるのではなく、膝や股関節を使って下半身の力を利用する身体の使い方を覚えていきます。
くしゃみなど避けることが難しいきっかけもありますが、普段の生活の中で変えられる動作はできるだけ改善することが大切です。
再発予防は「腰を使わないこと」ではなく、「腰だけに負担を集中させない身体の使い方を身につけること」です。
31.コルセットは必要な場面で上手に使います
腰に大きな負担がかかる仕事や作業を行う患者さんでは、コルセットを利用することがあります。
特に重い物を扱う作業や、腰に負荷がかかる動作を避けられない場面では、コルセットを補助的に使用することが役立つ場合があります。
一方で、コルセットだけに頼って身体を動かさなくなるのではなく、運動療法や身体の使い方の改善と組み合わせることが大切です。
32.治療は「効いたかどうか」を定期的に評価します
腰痛治療では、同じ治療を漫然と続けるのではなく、一定期間ごとに効果を確認します。
治療 | 一つの評価目安 |
一般的な薬物療法 | 約2週間を一つの目安に評価 |
漢方薬 | 1か月以上の経過をみて評価する場合がある |
リハビリ | 約1か月を目安に一度評価 |
神経ブロック | 効果を確認し、責任神経や診断もその都度再評価 |
効果が乏しい場合には、単に治療を強くするのではなく、薬の変更、リハビリ内容の変更、責任神経の再評価、画像の見直しなどを行います。
治療が効かないときには、治療法だけでなく「診断が本当に正しいか」を見直すことも重要です。
ごうだ整形外科の腰痛治療の考え方
痛みの原因を考える
↓
まず現在の痛みを下げる
↓
薬・物理療法・神経ブロックなどを選択
↓
急性期を過ぎたら運動療法へ
↓
治療効果を定期的に評価
↓
十分に効かなければ診断・治療を見直す
↓
保存治療で改善が難しければ手術を検討
↓
生活指導・運動療法で再発を予防
薬・リハビリ・神経ブロック・手術のどれか一つが正解なのではありません。患者さんの原因、症状、生活背景に合わせて治療を組み合わせ、痛みが生活の中心にならない状態を目指します。
腰痛治療についてよくある質問
Q1.腰痛は薬だけで治りますか?
薬だけで症状をコントロールできる患者さんもいますが、原因や症状によってはリハビリ、神経ブロック、生活指導などを組み合わせます。薬で改善しない場合には診断や治療方法を見直します。
Q2.腰痛の薬はどのくらい飲んで効果を判断しますか?
当院では初診時の一般的な薬物療法は約2週間を一つの目安として評価します。漢方薬などは1か月以上の経過をみて判断する場合があります。
Q3.急性腰痛でもリハビリをしてよいですか?
急性期には強い運動で症状が悪化することがあるため、まず痛みをコントロールします。物理療法を行い、痛みが落ち着いてから運動療法へ進むことがあります。
Q4.神経ブロックはどんな腰痛に行いますか?
強い神経痛、薬で十分に痛みが取れない場合、夜眠れない場合、仕事などの事情で早く痛みを軽減する必要がある場合などに、診察・画像を確認して検討します。
Q5.MRIで原因が分からなくても神経ブロックをすることがありますか?
あります。画像で明らかな圧迫が確認できなくても、症状や神経学的所見が特定の神経領域に一致する場合には、診断と治療を兼ねて神経根ブロックを検討することがあります。
Q6.どのような腰痛なら手術になりますか?
膀胱直腸障害など緊急性の高い神経障害では早急な手術評価が必要です。また、薬・リハビリ・神経ブロックなどの保存治療で十分な改善が得られない場合にも手術を検討します。
Q7.麻痺があれば必ず手術ですか?
麻痺の程度や進行、画像所見、日常生活への影響などを総合して判断します。麻痺があるだけで全員が直ちに手術になるわけではありませんが、進行する麻痺などでは早い評価が必要です。
Q8.慢性腰痛は完全に痛みをなくせますか?
患者さんによって異なります。完全な無痛だけを目標にするのではなく、原因をできるだけ改善し、眠る・歩く・仕事や家事をするなど、痛みが大きな負担にならない生活を目指します。
完成済み関連記事
- L-008「腰椎圧迫骨折とは?」
- L-012「この腰痛は受診すべき?|様子を見てもよい腰痛・早めに受診したい腰痛」
- L-013「整形外科医は腰痛をどう診断する?」
- L-014「腰痛の検査|レントゲン・MRI・CTで何がわかる?」
- 腰椎椎間板ヘルニアについて
- 腰部脊柱管狭窄症について
- 坐骨神経痛について
- 神経根ブロックについて
- 腰部神経叢ブロックについて
監修者プロフィール
合田 猛俊
医療法人社団GOZEN 理事長/整形外科医
医療法人社団GOZENの診療・経営を統括し、ごうだ整形外科ホームページ記事の医療監修を担当。腰痛診療では、薬物療法、神経ブロック、リハビリ、手術適応を含め、患者さんの症状と生活背景を踏まえた治療方針を重視しています。
佐々木 拓郎
北7条ごうだ整形外科 院長/産業医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター
北7条ごうだ整形外科の診療を担当。スポーツ医学や運動に関する知見も生かし、整形外科診療とリハビリテーションに取り組んでいます。
清藤 直樹
岩見沢ごうだ整形外科 院長/整形外科医
岩見沢ごうだ整形外科の診療を担当し、腰痛を含む整形外科疾患の診療とリハビリテーションに取り組んでいます。
記事情報
記事番号:L-015
記事名:腰痛の治療法|薬・リハビリ・神経ブロック・手術をどう使い分ける?
掲載区分:後編:手術・慢性腰痛・再発予防
シリーズ:ごうだ整形外科の腰痛ナビゲーション
監修:合田 猛俊/佐々木 拓郎/清藤 直樹
公開日:未定
更新日:未定


